有料散歩
一粒が、小豆くらいしかない思い出の粒。
春樹はそれしか見たことがない。
夏もまた、その時は同じだった。
なのに、小指の爪ほどだったの光の粒が、比べものにならないほど大きな塊になっている。
しかも、それは夏の祖母の口から出てきたのだ。
その事実は、まだ幼かった夏にどれだけのショックを与えたのだろうか。
「…まるで、太陽のようだった。熱くなんてないはずなのに、あまりにも光が強すぎて熱いと感じるくらい。俺や、両親たちの魂が霞んで溶けてしまうくらいに強い光。…そして、祖母はそうなった。光の中に溶けていった。いっそう光が強くなった気がした。」
ようやく目を開いた夏。
微かに震えている指先をきつく握りしめた。
春樹は黙って聞いている。
夏にはそれが有り難かった。
「…その光の塊がなんなのか、…思い出には違いないんだけど、どんな思い出なのか…春樹くんは解る?」
「…どんな思い出…?えっと…夏くんの…おばあさんの思い出なんじゃないのかな…?」
「うん、まぁ、それもある。」
「…も?じゃあ、それ意外には…」
「…蔵にあった思い出、全部だ。」
「全部…、」
「そう、全部だ。祖母は総てを食べたんだ。そして自分の中で思い出をひとつの塊にした。繋ぎに自分の思い出を使ってな。」
「自分の…?」
「そう、俺達は、自分の思い出で思い出を繋ぐんだ。たくさんの粒をひとつの光の塊にする。そうやって空間を保っていくんだ。そのためだけに、生きている。」
そのためだけに、生かされている。
「…だから、切ない。変えようのないものに、どうせ飲み込まれてしまうんだから。どう足掻いたって、どう逆らったって、どうにもならないんだ。…だから、俺は興味を持つことをやめた。何事に於いても、どうでもいいと諦めた。…ここに来るまではな。」