有料散歩
第十一章*時限爆弾
いつの間にか、春が終わろうとしていた。
爽やかだった風は温くじっとりと湿り気を帯び、梅雨が近いことを知らせてくれる。
そんな季節の移ろいを肌で実感できるのも、自然と隣り合わせでいられるこの場所に居るからだ。
毎日の散歩を繰り返しながら、春樹はつくづく思っていた。
それから、夏の思い出を聞いてから、春樹はずっと考えていることがある。
はたして、正しい答えは見つかるだろうか。
紆余曲折を経て、それでも答えにたどり着かないことなど、この世の中にはいくつもある。
ましてや人と人。
価値観も考え方もそれぞれ。
そう、つまり春樹の考えていることは夏のことだ。
夏は過去を話してくれた。聞いたからには、理解する努力をすべきだ。
湿った空気を存分に味わって、春樹の足元には生き生きとした苔がはびこっている。
春樹が踏んで歩いても逞しく成長を続けるそれは、なんて強いのだろう。
春樹の心許ない命の鼓動を遥かに越えて、なんと強いのだろうか。
そうありたいと、春樹は思う。
それを夏に伝えたいと、春樹は思う。