有料散歩
そんな梅雨になりかけのある日の夕方。キッチンでは、夏が夕食の支度をしていた。ご自慢の割烹着を腕まくりして、手際よく調理する。
春樹は夕食前に風呂を済ませ、ほてった体を涼ませようと窓際に座って外を眺めていた。
夕食前のこの時間。
つい先日までは夕闇が迫っていたはずなのだが、今はまだまだ明るい。
烏もまだ、帰ってくる様子はなかった。
「春樹くん、夕飯できたから手伝ってくれ。」
キッチンから夏の声。
リビングの冊子窓の傍にいる春樹に聞こえないはずはない。
「…おーい、春樹くん?」
濡れた手を拭いながら、夏は窓の方に視線を向けた。
「…春樹くん!!?」
白い頬が青く見える。
「ちょ、おい!春樹っ!!」
夏が駆け寄って意識を確かめる。
青白い頬に赤みが刺す。
しかし、その赤みは、夏の手の平によるものだった。
微かに瞼の奥が痙攣している。
息はある。
心音は…
僅かだが、ある。
「春樹っ、くそっ!きゅ、救急車だ…っ…」