有料散歩
何時間、過ぎただろうか。
看護師からは長くなるから仮眠を、と何度も言われたが、両親も夏もその場から離れることはなかった。
赤いランプを見上げ続けた瞳は、いつしか同じように赤く充血した。
それから、日付が変わろうとする時間になって、ようやく赤いランプが消えた。
落ち着きなく、立ったり座ったりを繰り返していた喜美子が祈るように、顔の前で両手を組む。
しゅっ、という鋭利な音を立てて、それまで頑なに閉ざされていた扉が開いた。
「先生っ!春樹は?!!」
噛み付くような勢いで、喜美子が医師に詰め寄る。
医師は疲れ果てた様子で、それでもまっすぐに三人に向かって言った。
「…今できることはしましたが、…覚悟を決めていただいた方がいいかもしれません。」
ああ、
一番にくずおれたのは春樹の父親だった。
ただ呆然と、立ち尽くすのは喜美子。
夏は、
声を押し殺して、
泣いていた。