有料散歩
「ははっ。落ちない落ちない。大丈夫。」
笑い事じゃない、と怒ろうと夏を見上げて
さらに愕然とすることになった。
横も上も同じような空間が広がっていたのだ。
「なっ…、夏、くん。」
「んー。」
くっくっと笑いを堪えている夏の、
シャツの襟首を両手で掴む。
「ここ、どこっ!」
「思い出の蔵。」
なんのためらいもなく、答えが帰ってきた。
「おもいでの、くら…。」
「そ、思い出の蔵〜。」
不可解な回答に言葉が詰まった。
「はははっ。春樹くん、手が震えてる。」
「…っ。」
悪戯に笑う夏を春樹は睨みつける。
手だけじゃない、足もだ、と息巻くと夏は更に笑った。
「ごーめん、ごめん。怖がらせるつもりはないんだ。ま、怖がるとは思ったけどもね。」
春樹が睨む。
そう怖い顔しないでよ、と夏は肩をすくませながら、首元の春樹の手を解いた。
「ごめん、突然すぎたな。でもさ、百聞は一見にしかず…だし。こういう所を口で説明しろってほうが難しい。」
足元に少し慣れた春樹は、それでも夏のシャツの袖をつかんだまま言った。
「見ても、信じられないよ。」
「だろうな。」
妙に納得したように頷き、にんまり笑う。
不気味だ。