有料散歩
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「見ろ!これがバスっちゅうもんじゃ!」
「ありゃぁ、大きなもんなんじゃねぇ。」
感嘆の声を上げて、
おさげとセーラー服が揺れる。
目の前には新品のバス。
大きいといっても大型バスというわけではない。
20人くらい乗れるかどうかのミニバスだ。
モスグリーンと赤ラインの入った車両の回りをぐるりと回って、女学生は再び感嘆の声を上げる。
「はぁ〜…、立派じゃあ。」
それを聞いて満足そうな声をあげたのは、恰幅のいい青年だった。
「そうじゃろう。あんちゃんがこのバスのドライバーじゃ。」
得意げに鼻の下をこすりながら、
「毎日この村と町を結んでな、年寄りも子供も、あんちゃんが運ぶんじゃ。」
「あんちゃん、すごい!」
「おう、千代の女学校も巡回するからな。
乗り遅れんようにすんじゃで!」
「うん!」
皆にも知らせて来る、と言って女学生は駆けていく。
雲一つない快晴の空の下、感情が止まってしまったままの春樹の目の前の光景は、時代遅れのホームドラマのようだった。
穏やかな日差しの中、
穏やかな青年の視線がこちらを向いている。
ああ、そうか。
これはバスの思い出だな。
と春樹は感情を込めずに思う。
青年はまぶしそうにバスを見上げ、
ヘッドライトを撫でる。
「相棒っ!これからよう頼むでな。」
全身で笑う青年を見て、感情がない春樹だが、なぜかふわっと浮かぶような感じがした。