有料散歩
第四章*夏の理由
その日はどんよりと曇っていた。
今にも泣き出しそうな空を見上げ、足早に駅を出る。
指定されていたカフェの入口に立ち、上着を脱いだ。
「お待たせしてしまって、申し訳ありません。」
窓際でブレンド珈琲を飲んでいる女性に声をかけた。物腰の柔らかそうな、上品な中年の女性は微笑みを浮かべたまま囁くように話した。
「あら、そんなに待っていないのでお気になさらず…、どうぞ。」
促されて椅子に掛けた。
ちらっと覗いた女性の手元のカップは、まもなく底が見えるところだ。
それは、やはり待たせてしまっていた事を意味する。
ウエイターを視線で呼ぶと、ブレンドを二つ、とさりげなくオーダーした。
珈琲が運ばれてくるまでは世間話をした。
雨がきそうですね、とか。
電車が混んでいました、とか。
緩く湯気の立つカップが運ばれてくる。
運んできたウエイターが立ち去るのを待って、姿勢を正した。