有料散歩
「ああ、そうそう!買い物してきたものが悪くなっちゃうわ!」
家中を案内していた母さんが今更ながら言って、慌ててキッチンへ向かった。
「母さん、今日はここに泊まっていくんでしょ。」
キッチンで冷蔵庫にいろいろ詰めている母さんの背中に話しかけた。
「そうねぇ、お家の中はあらかた業者に頼んでたから…もうママやることないんだけど。」
ソファーやテーブルや家電の揃ったリビングに佇む春樹を振り返った。
「春樹くんを一人にしちゃ心配だものね。」
今日はママと一緒に寝ましょうか、と母さんが冗談めかして言うので春樹はかすかに照れて俯いた。
もう15歳になったというのに、いつまでも子供扱いをしていたいらしい。
過保護すぎる母親だが、理由はちゃんと解っている。
春樹は自分の胸のあたりを抑えた。
「…春樹くん、お薬…。」
様子を伺う母さんの声。
「ううん、平気。」
「そう。ちゃんと苦しい時は言ってね。」
「うん。」
安心させるように微笑む春樹に、母さんも応えて微笑む。
「お手伝いさんね。」
「ん。」
「明日来るからね。」
「ああ、うん。」
言いながら母さんは再びがさがさと買い物袋をあさっていた。