有料散歩
「男の人でねぇ、とってもいい人よぉ。気さくでね。」
「ふぅん。」
「とてもいい大学を出てらっしゃるから、春樹くんのこともすぐ理解なさってくださったの。」
きっと頭のいい人は頭でしか理解しないんだろうな、と春樹は思う。
そもそも春樹は主治医の先生も少し苦手だ。
頭のいい医者ははっきりきっぱりものを言いすぎる。
有名大学を卒業し、若くも有能な医師だが性格に問題ありなんじゃないかと思う。
尤も、人の命を預かる医師って、皆あんなふうに辛辣じゃなきゃやってけないのかなとも思うが、体の悪い部分の話をただするだけ。治すためにはどうしても手術が必要だという。
先生はこうも言った。
「現状手術適応ありません。」
手術はできない、だからこのままにしておくというのだ。
手術しなければ治らないのに、できないからしない、という。
何もしなければ症状悪化はきっと免れない、20歳まで、難しいかもしれない。
「ああ、その人ねぇ、教員免許を持ってるそうなの。
だからお勉強のほうも心配いらないわ。」
「え。…お手伝いさん。」
「そう。」
「ハウスキーパー。」
「そうよぉ。」
…なんでハウスキーパーの仕事をしてるのに教員免許を持ってるのかと不思議に思った。
母さんは気にならないらしい。
「これからの春樹くんの生活にピッタリと思ってね、ハウスキーパーの派遣会社に行ったときにすぐ決めちゃったの。
会社の人もイチ押しの人だっておっしゃるし。」
「でも珍しいね。」
「そうよね、あんまり男の人でお手伝いさんっていないものねぇ。」
そうじゃなくて…と春樹は言おうとするが母さんは続ける。
「でも男の人のほうが春樹くんも打ち解けやすいでしょう。」
「まぁ、…そうだね。」
せっかくの母さんの気遣いを無駄にしないように、春樹は曖昧に笑ってみせた。