有料散歩
医者みたいなことを言う夏に多少の疑心が持ち上がったが、素直に寝巻の前を開けた。
聴診器がないので、腕の脈を触りながら直接耳を胸に当てられる。なんだか緊張して息を飲んだ。
程なくして夏が離れる。部屋が暗いので表情は読み取れない。
「…安定してはいるけど、弱いな。若干遅いし。」
「夏くん。」
「ん。」
「母さんからどこまで聞いたの。」
「なにを。」
「僕の体のこと。」
「なんで。」
春樹の体には、もう切るところなどないくらいにメスの跡があった。
脇から鎖骨にかけての左右にある傷は多分、生まれてすぐのものだろう。首も据わらないころから何度も体を開いているのに、春樹の心臓は治っていない。
不安が積もり積もって、もう逃げ場がないのだろう。あとは真っ向から立ち向かうか、諦めるか。
きっと大丈夫、の「きっと」が何処にもない。
不安で心細くて仕方がない。光を失った顔で春樹は夏に尋ねた。
「…僕の病気は治らないかもしれないって…もう聞いてるよね。」
不安を押し殺して、確信を持ったような声音だ。
少しの沈黙の後、夏が口を開いた。
「…かもしれない、だろ。奥様からは手術をする予定だと聞いてる。」
「できないんだよ、手術。」
「今は、だろう。」
はぁ、と息をついて夏が立ち上がった。そしてベッドの端に腰掛けて春樹をまっすぐ捉えた。