有料散歩



「春樹くん。春樹くん。」

朝の6時。

「おいこら…春樹っ!」

「う、ん…夏くん。」

無意識に布団を被り直す春樹。

「ったく。6時になったよ。顔洗って着替えろ。」

「もう、ちょっと…。」

カーテンの隙間から薄日が漏れている。歩み寄った夏がシャっとカーテンを開けた。
だがこの部屋は西向に作られているので、お日様とはまだ対面できない。

朝もやの森に広がる光は瞼を貫くほどの強さはない。

瞼を開ける気なんてさらさらない、というように春樹は布団の端をがっちり抑えて潜り込んだ。

「このやろ…そうくるなら、俺はこうする!」

抑えていない足の方から布団をがばっと捲られた。春とは言え、朝方はまだ冷える。

「わぁっ!寒いよ、夏くん!」

まだ瞼を開けずに、布団を手繰り寄せた。その様子に夏は肩を上げた。

「…けっこう強情だな。素直ないい子って聞いたんだけどな、」

悪い子にはこうだ、と言って夏は春樹の瞼を人差し指と親指で無理矢理こじ開けた。とたんに吹き出す。

「ぶっ、ははっ、どこまで強情なんだよ!ここまでされたら普通起きるだろ。
ははっ、白目むいて抵抗って…あははは。」

ばちっと目を見開いて、お腹を抱えている夏を睨んだ。

「べっ、別に白目になったわけじゃないよ!夏くんがあんなことするから!」

「…くっくっ、あ〜笑った。春樹くんも起きたことだし、朝食作るかな。」

すっかり目覚めた春樹は、渋々ベッドから降り立った。

「一階は暖めてあるから、寒かったら下で着替えな。」

夏が部屋を出て、とんとんと軽快に階段を降りていく。
ジーンズとニット、厚手のパーカーを手に春樹も階段を降りた。
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