有料散歩
第六章*ユグドラシル
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空が近い。風が近い。
上空で鳶が気流に乗っている。
四方に枝を伸ばすと、照り付ける太陽が暖かい。まどろむ。
太く堅い幹には虫が這い、枝と枝の股には宿り木が実をつけている。
虫がこそこそとその身を動かせばこそばゆいし、宿り木の根が幹に刺さるところは少しチクチクする。
でもそんなことは細事だ。
根本は苔に覆われていて、昨日雨が降ったのだろうか。水溜まりができている。
その水溜まりには動物たちが訪れ、喉の渇きを潤していた。
ああ、これが木。
自分の姿は解らない。
一体いつからここに生えているのか。途方もない時間の逆流を試みる。
いや、やはりそんなことも細事だ。
こーん…かーん…
樵がどこぞで斧を奮っている。
こーん…かーん…
働き者だ。
『―たおれるどぉー!!』
――ドシー…ンッ――。
バキバキと周囲の枝を巻き込んで地面が揺れる。
こーん…かーん…
繰り返す。
日が傾きかけ、
烏が切なく鳴きながら飛んで来る。
蝙蝠がその薄い膜のような手を広げ
滑空している。
なんと細かいことだろう。
樵が草笛を吹いている。