有料散歩
「最初に生まれし母なる巨人、
ユミル。
ニブルヘイムより出る
牡牛アウドムラの乳を飲み、
その身を横たえ眠るごとに、
ほとばしる汗から
限りなき巨人を生み出した。
アウドムラの舐めていた
塩の岩からは
最初の人間ブリも生まれた。
ギンヌンガカップの
大きく開けたその口は未だ
深く暗い奈落を以て
悠然とあったが、
ユミルの生み出す巨人と
ブリの子々孫々と。
かつてなにも無かった世界は
そこには存在しなくなった。
巨人とブリの息子の交わりより
神々が生まれた。
オーディン、
ヴィリ、
ヴェー。
3神の兄弟は母なるユミルを
憎み嫌悪する。
偉大なるその姿に脅えたのか…
はたまた力を欲したのか…
3神の技を以ってして
ユミルの亡きがらが
ギンヌンガカップに落とされた。
3神は創った。
ユミルの肉や骨や髪で大地や森を創った。
はたまたその血は海となり
ユグドラシルを軸として
世界は創られた。
その世界は九つに分けられた。
天を仰げる神々の世界。
大地を頂く人々と巨人の世界。
暗く湿った地中の世界。
それぞれに
二つの成り立ち。
更に
ユグドラシルの広く構える
その天辺には
光の妖精の世界。
かつてからそこにありし
炎の世界と氷の世界。
これで、数は九つ。
神々と人間と巨人と妖精。
神の気まぐれから
知恵と姿を与りし小人。
これで世界は成り立った。」
一息おいて夏はハーブティーを口にした。
ずいぶん冷めてしまったが、猫舌の夏には調度いい。
目の前には続きを促す春樹の爛々たる瞳が輝いていた。
「…ここまでで質問は。」
話にのめり込んでいた春樹は突然現実に引き戻されてはっとする。
「…え、と。…ユグドラシルはなに。」
「ああ。世界樹の名前。他にある。」
「えーと…ユミル、って1番始めに生まれたってことは先祖ってこと。」
「ん、まぁそうなるかな。」
「なんで子孫の3神はユミルを憎んだの。ってか殺しちゃったってこと。」
「そう。」
「ふーん、変なの。」
夏は、相変わらず理解力の長けている春樹に感心した。
話し甲斐のあることだ。