有料散歩



「神の住まわう世界の一つ。
アースガルド。
オーディンをはじめ、
神が暮らす世界に連なって、
ユグドラシルの根が一つ。
もう二つ根はあったが、
それぞれ連なる先は違う世界。

アースガルドに連なる根の先、
仰々しくも鮮烈な泉が湧き誇る。

泉はウルズの泉と呼ばれ、
ノルンの女神がここに住まい、
守護した。

名の由来たるや
女神の一人。
ウルド。

過去を司っている。

ノルンの女神とは何ぞ、

巨人族も神族も小人の娘もいる、
一概に種族とは言えない。

ただし、
運命を定める三人の女神。
世界も、神も、人間も、
この女神の前では
逆らえるものはない。

運命とは得てして逆らえない。

三人の女神。
過去を司る、ウルド。
現在を司る、ヴェルダンディ。
未来を司る、スクルド。

運命を決める女神にも、
他に大切な役割があった。

神々が戦をしては、
ラタトルクスが駆け回っては、
巨人が暴れては、
傷を負うのはユグドラシル。

天を貫くその巨木とて、
傷付いては癒されたい。

女神はこれを請け負った。

ウルズの泉の水をかけ、
癒えよ、伸びよ、と
慈しむ。

始まりも、終わりのその後も、
悠然とそこにありし
ユグドラシル。

終わりとは、世界の終わり。
再生の時。
ラグナロクと呼ぶ
終焉の時。

神も人も巨人も皆。
滅び世界は再生する。

しかしながら、
ユグドラシルは確固として、
ラグナロクのその後も、
世界を貫く宇宙なる樹。


移ろうとも変わらない。
宇宙なる樹は、
いつの世界にも悠然と
神も人をも支えるだろう。」




リビングテーブルに預けていた上半身を起こして、夏はとうに冷たくなったハーブティーを飲み干した。

春樹も習ってカップを口へ運ぶ。


ふぅっ、

と同時に大きく息をついた。

そしてどちらからともなく笑い合う。



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