有料散歩
「どう。だいたい解った。」
「うん。走り回る出っ歯の正体が解明したよ!」
「ああ、ラタトルクスな。」
春樹はにこにこと頬杖をついて、夏に尋ねる。
「なんかさ、北欧神話面白いかも!でも夏くん、一体どこで覚えたの。」
俺自身の記憶ではない、と言っていた夏。
ならば出所をぜひ知りたいものだと思ったのだ。
「それは…秘密。なんてな、もう春樹くんは俺の秘密知ってるからいいか。」
夏も春樹に習って頬杖をついた。
まるでカフェで女子トークを炸裂している女学生みたいに二人でにんまり。
「いつだったかなぁ…。まだ小学校高学年かそこら。俺は思い出の蔵にこもりっぱなしだったんだよな。」
意味は違えど引きこもりだ。
と夏は苦笑する。
「で、ある日ものすごい思い出の粒を見つけた。なんと!七色の虹みたいにカラフルな粒。赤く光ったり、黄色くなったり青くなったり。ころころ色が変わるんだよ。」
「えー、僕、そんな粒見てないよ!」
「ああ、俺も初めて見つけたんだ。滅多にないんだよ、そんな粒。
で、俺はもちろん興味を持った。どんな思い出だろうって、わくわくして飲み込んだわけだ。」
夏が一呼吸置く。
こういうところが話しに引き込む所以だろう。
「それはな、もうろくした婆さんの思い出ってか記憶だった。婆さんはな、北欧神話の元になるノルマンの血を引く語り部だ。そりぁあもう莫大な記憶を持ってた。
俺はかなり焦った。あんまりにも多すぎて、生めかし過ぎる記憶だったから。しかも俺は当時まだ10代前半。今の春樹くんより若い。」
春樹より若い…夏を想像してみたが、あまりにも今の夏が個性的すぎて、無垢な子供時代は描けなかった。
「怒涛の思い出を消化して、やっと解放される…と思った時。ふっと視界が遮られたんだけど、あろうことかまた始まったんだ、始めから。」
「えっ。」
春樹が見たバスと木の思い出は、バスや木が死ぬと同時に解放された。
決して繰り返しはしなかったはずだが。