有料散歩
「始めから。」
「そう、始めから。」
「なんで。」
「なんでだと思う。」
質問に質問で返ってきた疑問に、春樹は首を捻った。
「うーん…わかんない。降参。」
「降参するの早いな、まぁ潔しとしてやろう。」
首を捻ったものの、3秒で白旗を上げた春樹に夏がやれやれといった様子で話し出した。
「実はな婆さん生きてたんだよ。」
「ええっ!」
あの思い出の蔵には死んだ人の思い出が貯蔵されていくシステムである。
しかし春樹は記憶の片隅にいた夏の言葉を思い出した。
時には生きてるうちに思い出を送り込んでくるのがいる、と。
それは飲んではいけない粒で、捕われたら迷路を迷うことになる、と。
「夏くん迷路に捕われちゃったの!」
「はは、まぁそうなるな。後で気づいたんだけどさ、色がころころ変わるのは、その思い出が変わるかもしれないからだったんだ。
思い出の粒はもう死んだものの記憶だから、決して変わることはない。だからその粒が持ち得ている思い出のカラーっていうか雰囲気が色になって光ってるわけ。
でも本来の持ち主が生きてたら、思い出の雰囲気も変わるかもしれない…だから、虹色になってたんだ。」
「なるほど…。でもなんで繰り返すの。」
「春樹くんは思い出からなんで解放されたの。」
またしても質問に対する質問。
でもこれは簡単に答えられる。
「だって、バスも木も死んじゃったもん。」
「そ。思い出の持ち主が生きてたから抜け出せなくなったわけだよ。」
「でもそしたら、夏くんずーっと繰り返しでエンドレス。」
「そう…おかげでノルマンの言葉や文化覚えちゃったし、北欧神話も覚えちゃった。まあ、さっき話したのはかいつまんで更に解りやすく俺流に解釈したやつだけど。」
その後、命あるものは皆天命を授かっているものだから、ノルマンの語り部のお婆さんも寿命を迎え、夏は思い出から解放されたらしい。