有料散歩
第七章*牡丹雪
お日様温く、昼食後の散歩に繰り出した春樹。
もうすっかり春の匂いが辺りを包んでいる。
遠出は出来ない春樹だが、近くにだって沢山興味深いものがあることをもう知っている。
例えば、
家の裏側、北向きの方に少し行くと立派な樫の木がある。
本当に立派な太い幹なのだが、根本の所が少し掘り下がっていて空洞になっているのだ。
まるで木そのものが屋根であるかのよう。
空洞は部屋のようであるが、実はそこには小さな水溜まりが出来ている。
沸いているのか、雨が貯まったのか、木が汲み上げる水が滴り貯まったのか…
いづれにしても澄んだきれいな水がぴちょんぴちょんと波紋を描いていた。
そして西側、春樹の部屋の窓からいつも見える景色の中には、ひときわ高くそびえる異質な木。
山全体を見回したとしても、この一本きりだと思われる異質な木からは琥珀に輝く蜜がぷっくりとその幹から滴っている。
春樹はあまりにもその樹液が綺麗だったので、そっと指に絡めとった。
匂いを嗅ぐと、なんとも芳しい。
興味本意で舌先に乗せてみたら、ものすごく甘い。
良薬は口に苦いと言うが、こうまで甘いと逆に毒なのでは…と慌てて夏に報告した。
すると夏はにんまり笑って慌てもせずに、あの木はメープルだよと言った。
メープルシロップのメープル。
カナダの国旗に描かれた手の平みたいな葉っぱをつける木。
それを知って以来、あの甘く美しい琥珀色は春樹のお気に入りだった。
あとはやっぱりリスの巣穴。
今はもう威圧感なしでのほほんとリスが顔を出すのを待っていられる。
気まぐれに顔を出しては、引っ込み。また出す。
春樹はこのリスにラタトルクスと名前を付けた。