有料散歩



木々の枝先にはちょんちょんと賑やかなほど葉っぱの赤ちゃんが眠っていた。

もうあと1、2週間もすれば山は一気に色めき立つだろうと夏が言っていた。

春樹は楽しみでしょうがない。


山の空気を存分に吸いながら、のっしのっしと闊歩する後ろ姿はいつのまにやら頼もしくなってきていた。

希望や夢を背負う元気な背中。


その背中に、聞き慣れない可愛らしい声がぶつかった。


「…ねぇ。」

振り向くと、小柄で華奢だが至って健康そうな肌色の少女が立っていた。

「ここでなにしてんの。」

ちょっと刺のある言い方に、春樹は怯んだ。

「何って…散歩…。」

「はぁ。ここはおじいちゃんの山よ。勝手に入らないで。」

両手を腰に当て、仁王立ちの少女。
初対面だというのに、あんまりにも不躾すぎる気もするが、少女の凛とした顔立ちや雰囲気に魅せられて春樹は苛立ちを感じなかった。

「早く帰って!」

尚も発せられる不躾な言葉に、ようやく春樹に懸念が浮上する。

そもそもこの山は春樹の両親が買った山だ。

無言で睨みつける春樹に怯んだのか、少女は腰にやっていた手を下ろした。


「…まぁ、いいわ。今日だけだからね。まったく。」

そう言ってくるっと身を反転し、目的を持った足どりで歩いていく。

少女のつま先の向かうところは春樹の家だ。

温かみのあるログハウス。

迷うことなくそこへ向かっている。


急な展開に訳がわからず、春樹はとりあえずその様子をじっと見ていた。


少女はまっすぐ玄関までたどり着くと、インターホンも鳴らさずに勢いよくレリーフの頑丈な扉を開けた。

「おじいちゃーん!ゆきよ!遊びに…ひぃっ!」

どうやら夏の知り合いでもないらしい。
玄関掃除をしていた夏を認識するなり、少女は驚いて一歩退いた。


「なっ…、おじいちゃん若返ったの!」



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