有料散歩



「あれ、ずいぶんとまぁ可愛いお客様だね。どちら様ですか。」

割烹着にほうきとちり取り。
首から下だけ見ると時代錯誤なお袋さんのような夏は、突然のことにも動じない。


「な、あんたこそ誰よっ!」

「若返ったおじいちゃんですよ。」

少女の言葉をそのまま包んで返す夏。

「そ、そんな訳ないでしょっ!おじいちゃんはどこに行ったのよ!」

さっきからこの少女は『おじいちゃん』を連発しているが、おじいちゃんなんてこの山にはいない。

どこからどう見ても夏は青年。
春樹は少年。
少なくともあと40年後くらいじゃないと『おじいちゃん』にはなれないだろう。


「ちょっとどいてっ!」

割烹着をぐいっと押しやって少女は家の中に踏み込んだ。


ここまでくればただごとではないような気がして、春樹も玄関先まで来て様子を伺った。
夏と目が合う。


「…知ってる子。」

「僕は知らない。」

「…。」

「…。」


春樹も夏も初対面らしい少女はリビングに立ち尽くしていた。

状況が飲み込めないものの、明らかに不法侵入である少女の後ろに立つ青年と少年。

どっちが声をかけるかで肘で小突き合っていた。

声をかけたのは青年。


「えっと…君は、ほんとにどちら様。」

くるっと振り向いた少女の目には、今にもあふれそうな涙の雫が光っていた。

「…おじいちゃん、どこ…。」

『おじいちゃん』を解決しないと会話にならないらしい。

「おじいちゃんと言われても…ここにはいないよ。」

「じゃあどこにいるの!」

「え、そもそも君の言うおじいちゃんが誰なのか…」

春樹にも夏にもさっぱりだ。

「おじいちゃんって言ったらあたしのおじいちゃんよ!」

「あー…まぁそうだろうなとは思うけどね。俺は君のおじいちゃんと恐らく面識はない。だからどこにいるかも解らない。」


きっぱり言い切った夏の言葉に、うわっと少女が泣き崩れた。



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