有料散歩
「おじいちゃんはこの山のどこかに、牡丹を植えたはずよ。」
春樹と夏が窓の外を見る。
木々が所狭しと生えている。
「ちゃんと生まれ変わって、綺麗な花が咲いていて、それをあたしに見せてくれるって。きっと花を好きになるよって、おじいちゃんはあたしに約束したの。」
遠い空は薄くカーテンが引かれ、感動的なグラデーションの中、アクセントにはふわふわの積雲。
遥かを見ているゆき。
夏はまだ何かあるなと直感した。
ゆきはまだ総てを話していない。
それでも、頑なだった少女が打ち明けてくれた話しを無下にはしない。
夏はきちんと正面から受け止めた。
それは、隣に座る春樹の、純粋なまでの実直さ、思いやりが伝わってきたからだ。
春樹は痛いほどにゆきを思いやった。
さっそく牡丹を探そうと考えた。
けれども、はた、と気づく。
流石に花が咲いていれば牡丹と解るが、茎と葉だけでは判別できない。
春樹は牡丹を見たことがないのだ。
困った顔をした春樹の横で、夏は思案顔。
「…春樹くん、散歩、する?」
「え?今?」
「そう、思い出の蔵にでも。」
何故か突然に提案してきた夏に、春樹は戸惑った。
思い出の蔵にはまた行きたいと思っていた。
が、別に今ではない。牡丹だって、今この山のどこかで息づいているはずだ。
思い出は必要ない。
「…思い出?くら?」
何の話しなのかついていけないのはゆき。
「気になる?」
夏がにんまりする。
ゆきがこくんと首を振ると、
「まだ、秘密。ゆきちゃんがきちんと全部を話してくれるまでは。」
ゆきが目を見開いたが、春樹は気づかなかった。