有料散歩
第八章*悲しい時代
三人はそれぞれの歩幅で、思い思いに山を歩く。
牡丹を探して歩く。庭には無かった。
夏がひとり突き進む。
実はめぼしいところに当たりはつけてあった。
それらしい植物をちらりと見かけたような気がしていたのだ。
朝日が一番に当たる東側、少し急な斜面の中腹に、木が生えていない空間がある。
かつて誰かが畑でもやっていたのかと思っていた。
土は養分がたっぷりでやわらかく、今はもう野性化してしまったが、食用野菜やハーブが育っているのだ。
重心を後ろに傾けながら、夏は斜面を下る。
「ったく、何だってこんな場所に畑作るかなぁ、おじいちゃんは。」
独り言をつぶやきながら、慎重に下りていく。
何度か足を運んで、ハーブなどを拝借していたので、転んだりはせずに到着した。
「これ…牡丹だったのか…」
ひっそりと佇む、牡丹。
花はまだつけていなかったが、葉の間に固いつぼみを付けていた。
花はきちんと生まれ変わっていたのだ。
しげしげと眺めた夏は、そのまま斜面を登り、春樹を探した。
「あ、春樹くん!」
きょろきょろと辺りを見回していた春樹が振り向く。
「夏くん、あった?」
「いや、それより…」
ぱちん。
春樹に歩み寄った夏は、そのままの勢いで春樹の肩を掴み、指を鳴らした。
唐突にやってくる視界の歪みが、春樹と夏を飲み込む。
またしても、否応なしに強制連行された先は、言うまでもなく思い出の蔵だった。