有料散歩
「春樹くん、大丈夫?」
三度目の春樹は、きちんとまっすぐ立っていた。
目の前には夏の顔。
「もう…またこんな突然に…」
でもそれが夏なんだと、春樹は心得ている。
しかし今日は一体どんな思い出を飲むのだろうか?
前に飲んだ思い出の粒には、相応の理由があり、確実に春樹の糧になるものだった。
悲しいだけじゃない、悲しい記憶。
思い出から解放され、しばらくは悲しいだけなのだが、よくかみ砕いて考えれば、いづれも暖かく感慨深い。
「今回は…人だ。」
夏が言い、歩き出す。
「…人?」
「おじいちゃん。」
夏が珍しく渋い顔で春樹を振り返った。
「…春樹くんには刺激が強すぎるかとは思うんだけど、たぶん耐えて、ちゃんと消化できるのは俺より、春樹くんだ。」
夏の手の中には、夕暮れみたいな色の光の粒が輝いている。
「…どうして?」
「ゆきちゃんはまだ何か隠してる。それがたぶんすごく重要なこと。」
「…だからって勝手に探るのは…あんまり気が進まないよ。ちゃんと話してくれるまで待った方がいいと思う。」
「いや、ゆきちゃんは話せない。なぜなら、迷路に迷い込んでるからだ。」
「どういうこと?」
「…こっち。」
夏が向かう先には、小さな光の粒。ちかちかと瞬いているのは、一瞬一瞬で色が変わっているからだった。
「…これ…、」
「もしかして、と思ったんだけどな。ゆきちゃん、おじいちゃんの死を受け止め切れずに思い出を手放したみたいだ。」
「…そんな…、」
一見すればどの光の粒よりも美しいそれが、なぜだか物悲しい。
「これじゃあ、牡丹を見せたって、何の意味もない。」
「…僕、おじいちゃんの思い出見てみるよ。」
少し悩んだ春樹が顔を上げ、きっぱりと言った。
「人の思い出って、生々しいしきついけど…」
「大丈夫。」
春樹が差し出した手に、夏はそっと粒を乗せる。
深呼吸をして、こくん、と飲み込んだ。