有料散歩




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視界いっぱいに広がる天の川。

雲ひとつない夜空に、しゃらしゃらと音が聞こえるような気がする。
それくらい、星がたくさんだ。


春樹の意識は今、ゆきのおじいちゃんの思い出に縛られ、美しいという感想は出てこない。


拓けた野原に寝転んで、腕を枕に夜空を見上げている瞳の持ち主、名前は柊芳郎。

少女が隣でうたた寝をしている。

凛とした印象の、小柄な少女。

「明花…」


メイホワと発音した芳郎。
うとうとする少女の肩をそっと揺らし、何かを呟く。

すると少女がまぶたを持ち上げて、芳郎をその瞳に映し出した。
ふんわりと微笑んで体を起こし、口を開く。


芳郎も、明花も日本語ではない何語かを話している。

そのまま連れだって歩き出し、野原を過ぎると寂れた町があった。
明花をそこに残し、芳郎はまた歩き出す。

たどり着いた先は先程の町同様に廃れた集落だった。

その一つの建物の扉を開ける。


「ただいま。」

「ああ、芳郎、どこ行ってたんだい?心配したよ。」

「…ちょっと。」

「父さんがお前に話しがあるそうだから行ってきなさい。」


芳郎は奥の部屋へ向かう。

部屋の中には、窓辺に椅子を置いて夜空を見上げる背中があった。


「父さん、話しって…」

「芳郎か…今日は七夕だなぁ…」

振り返らないまま、父がぼそっと言う。
芳郎は椅子を窓辺に寄せて、そっと腰を下ろした。


「お國は、まだ戦争を止めないな。」

「はい。」

「まだお前が生まれる前だが、儂には昨日の事のようだ。」

父が言うことの意味を芳郎は痛いほど分かっている。

まだ20年と経たない近い過去の、今日この日。

日本と中国とが全面的にぶつかり始めた。

虚構橋にて言葉にはし難い光景が繰り広げられた。

そのすぐ後には、通州事件という痛ましいこともあった。

何度も繰り返し聞かされていた芳郎は、まるで見てきたことのように鮮明に想像できる。



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