『吊り橋』で出会う
肩に手が乗せられている。



もしかして恐がってると思われた?



ユキは男性の声に振り向き、『大丈夫です』と返そうとして気づいた。

このひとは『大丈夫ですか』と問うたのではなく、『大丈夫だ』と断定したのだ。

その断定に『大丈夫です』と返答しては会話が変だと思った。


「あ、えと、どうして?」


慌てて返答を探したので敬語を忘れてしまった上、どうして大丈夫なのかを聞き返してしまった。

なんとも間抜けな返答だと思った。

男性はユキの質問が意外だったのか、少しの間の後に答えを返した。

「…。ただの停電のようですから。暗がりに目は慣れた?」

「なんとか」

「じゃぁ、ここを出よう。停電が復旧するまでここは本屋として機能しないし、雨宿りならここじゃなくてもできそうです。ほら、ほかのビルは明かりが点いてる」


本は何も持ってないでしょう?


そう言って彼は私の手をゆっくりと引いた。


ユキは本を持っていなかった。



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