『吊り橋』で出会う
知らない人に手を引かれ、ドキドキしながら出たビルの外は、ユキが思った以上にかなり平和だった。

もちろん、突然の雨に降られ傘をさす間もなくずぶぬれになった人や、ケータイで電車の運行を確認している人、迎えを呼ぼうとしている人など大勢の人が溢れ返っていた。

しかし、それだけだった。



あとは、家に帰る交通手段があるかどうか…



人の波を見てごくりと唾を飲み込んだことで、まだ緊張して身体に力が入っていることを自覚して、ユキはまだ自分が男性の手を握っていることに気づき、改めて男性を見上げた。

意外と背が高い。

男性もこちらを見ていた。

すんなりと視線が合った。

思いがけず優しい視線に身体がぴくりとした。


「まだ混雑してるから、よかったら一緒に時間を潰してくれる?」


知らない人と時間を過ごすことが苦痛に感じるという習慣から、ユキは断ろうと思った。

しかし。

断りの言葉を口にする前に男性は続ける。

「すいてる所知ってるんだ。それに、交通機関は当分回復しないよ」

「あ、う…ん」


この人にはなんだかわからないが、気恥ずかしさを感じてしまう。


煮え切らないユキに、男性はつないだ手をさらにぎゅっと握りにこりと微笑んだ。

「大丈夫、オレは怪しい人じゃないよ」

心にすっと入ってくるキレイな笑顔だった。

ユキの警戒心は緩んだ。

押しに負けてユキはOKした。


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