『吊り橋』で出会う




男性はユキにソファを勧め、コーヒーを入れる用意を始めた。

「ここ、すいてるでしょう?」
「すいてるけど・・・」
「何か?」

何かではない。
ユキは書斎のような部屋を見回した。

男性に誘導されるがままだったユキ。

男性の足が大学に向いたときは通り抜けるのかと思い、それが構内をずんずんと進んだときは構内のカフェに入るのかと思い、建物に入ったときは屋内のカフェに入るのかと思い、黙って着いてきた訳だが。

「ここは、あなたの部屋?」

到着した大学の一室。
教員の居室のようだった。
確か、表札は…。

「違うよ。ここは知り合いの部屋。よく来るんだ」

いたずらっ子のような微笑みを浮かべて男性が答える。

「え!?勝手に入って」
「いいんだ。時々個人的に雇われて秩序管理を担ってるから。鍵も預かってる」

そうだ、男性は鍵を使って部屋を開けたのだ。

それに男性がこの部屋を訪れているのは本当らしく、手慣れた準備の後に続き、既にコーヒーメーカからは良い香りが漂い始めていた。

「ちなみに、部屋主は出張中。オレはさっきまでこの部屋を主に代わって仕切っていたバイト君」

男性は机に軽く腰掛けてこちらを向いた。


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