トリップ

声をかけてきたのは、先ほどの勝った方の生徒。
綺麗な顔立ちで、それなりに背は高い。180センチくらいか。
しかし、私はそれくらいで惚れる人間ではない。(いや、男に惚れた事すらないっ!)
いくら顔がいいとしても、それなりの付き合いがないと信用できない。

だが、一応挨拶くらいはしておこう。

「ど・・・うも・・・。」

小心者な私はつい彼の迫力に負けてしまい、すっかり腰が低くなっている。

「君、剣道部の見学に来たの?」
「い・・・いや、たまたま女子の叫び声がしたんで・・・ゴキブリでも出たんかな~・・・と。」

ゴキブリが出たと言うのは勿論嘘。
興味本意で来たと言えば、中に連れ込まれて試合を見させられかねない。
まあ、女子が関わってこれば私ならすぐに飛んで行くだろうが。

「ふーん・・・。君、何か言葉遣いが変だね。どこの人?」
「うぐっ」

痛いところを突かれた。
漫画の中では、こういうことに正直に答えたらもっと個人情報を追求される。
普通ならこういう出来事は主人公のステップアップに使われるのだが、私はこの小説をそんな構成で書いたわけではないはず。
いや、すべてが恋愛目的の小説なんて私は滅多に書かない。

というか、まだ名も知らない相手に個人情報を教えるのは、自分の中では漫画を野焼きの中に突っ込むことと同じくらい危険な事なのだ。(この例えは、あくまで私の中で、だ)
< 117 / 418 >

この作品をシェア

pagetop