トリップ
しかし、この「故郷を教える」という状況に入ってしまった事に変わりはない。
教えるのは気が引けたが、返って教えないと周りから「一般常識無き田舎者」・「礼儀無き人間」という見方をされてしまうだろう。
どの道の転んでも、結局自分に有利な事はない。
「ぎ・・・岐阜です・・!」
結局、故郷を教えてしまう事になる。
もうこのまま言ってスルーしてしまえ。そう思いながら私はこの話の自然消滅を狙う。
「へぇ、白川郷でとか、薄墨桜で有名な。」
「はいぃ・・・」
何だ、よく知ってるじゃないか。
感心の中で、私は次に何を言うべきか、どうすればこの場から抜け出せるのかを考える。
「ああ、そういえば名前聞いてないな。誰?」
「キリダ・・・です。」
勢いで言ってしまった。
苗字を教えたら絶対に名前を聞かれてしまう。
頭の中でその様子を妄想しているうちに、相手が口を開く。
「キリダさんって言うんだ。俺は高木。」
「はぃぃ・・・高木先輩・・・ね。」
背が高いだけに「高木」なのだろうか。妄想が終わる前に言ってくるものだから台詞が思い浮かばない。
先輩をつけたのは、何となく年上という感じがしたからだ。