トリップ
こめかみや額に汗が流れる。
夏の暑さよりも、冷や汗というべきだ。
するとそのとき、道場の中から女子が一人顔を出した。
見覚えがあると思ったら、同じクラスの少女。
「あ、キリダちゃんじゃん。」
「?知り合いなの?」
女子の声に、高木が振り向く。
「その子、転校生なんです。文芸部所属で・・・」
「文芸部?うーん・・・この子は格闘技って感じがするけどな・・・。」
それはよく言われる。
心の中でうなづくと、同時にこれは逃げるチャンスだという自分の声。
所属している部活が知られれば、夏休みにわざわざ来ている理由もいえる。
よって、この場から逃げられる。
「えー・・っと、うちは部活があるんで・・・ここは・・・」
「・・・そうなんだ。うん、また来てね。」
もうこーへんわ。
そう思って柔道場に背を向けた。