トリップ

今度は馬鹿にしたように笑う。

「ほら、早く行くぞ。」

急ぎながら、付け足すようにこんな事を言う。

「君だって、芸能に関わる仕事がしたくて紅涙に入ったわけだろ。だったらもっと意識・・・」
「そういうわけやないよ。」
「・・・何?」

言葉を遮られ、そして否定された事に驚いているのか、目を丸めている。

「うちが引っ越してきた頃から、もう行く学校はお母さんが決めとったで。」
「・・・母親の希望か。否定はしなかったのか?こういう行事があると聞いて。」
「特には分からんかったし・・・仕事にもなるで、仕事しとるお母さんの手助けとかしたいし。」

珍しい言葉だった。
この学校に入る者は、皆両親の事など考えない、自分の事しか見ていない者ばかりだった。少なくとも、リクが見てきたのはそんな人間ばかりであった。
またしてもエリカを強制的に引っ張って行く。
エリカは力なく引きずられるように付いて行った。

・・・・・・・・・・・・

テレビ局に着き、自動ドアをくぐり抜けると、スーツ姿で大人しそうな男が立っている。

「やぁ、君もオーディション?」


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