トリップ

刃を放すと、次は刺すような体勢でこちらに突っ込んでくる。
焦っている。
リクはとっさに思う。焦った相手は大抵簡単に片を付けに来る。
見透かしたつもりで構えたが、相手の演技だったらしく、リクの前に来ると体勢を変えて切りつける体勢になった。

あ、演技だったか。

そう思って体勢を立て直そうとするが、その前に男の刃先が音を立ててリクの顔を横切った。とっさに目を潰されないように手の甲で守ったため、手から一筋の血が流れる。
といっても、かすり傷程度であった。
平気な顔でリクは血を見つめた。

「いっさいひるんでないね。」
「ああ、慣れてるからな。」
「・・・君は化け物だ。」

ドクンッ・・・

一瞬、リクの中に小さな衝撃とショックが走る。痛くなった。
そう呟くと、男はまた切りつけるように走ってくる。構えるような動きに見せたが、リクは何故か武器を下ろした。
男はリクが避けきれないという所まで来てから、突き刺す形に変えた。
リクは避けもしずに、そのまま男と重なった。
2人とも動かない。

やったか、と男が呟くが、体を放した瞬間に腕が離れないと感じる。
感じた頃には男の胸にいつの間にかナイフが沈んでいた。
腕の方を見ると、刀はリクに刺さっていない。
彼は男の腕をを左腕で挟み、刀を腕と腹の間に刺し込ませていた。
挟んだため多少腕と腹は切れているが、怪我といえるほどでもない。
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