トリップ
嫌々と業者に電話し、誰を射殺するのかを聞いてから、ターゲットを打ち抜くべく高いビルに上る。
急がないと標的が移動してしまうかもしれないため、なるべく階段を使って屋上に向かう。ゴルフバックから小ぶりなライフルを取り出すと、私は伏せて銃を構える。
風向きが狂わないのを確認すると、さっと引き金を引いた。
便利屋に改造してもらったこのライフルは、普通よりも音が小さく、下の人間には大抵は聞こえない。
そして早々とライフルをしまい、怪しまれないように充電した携帯電話でメールしている素振りで階段を降りていった。
外から見ても怪しく見られないように、下書きに会話のメールを書く。
ビルを出ると、外ではターゲットの周りで人が悲鳴を上げている。
痩せている割に二重顎のターゲットは、白目をむいて死んでいた。
私は知らぬフリをしてターゲットに背を向ける。
しばらく歩いてコンビニに入ると、雑誌が立ち並んだ所に寄ってみた。
雑誌に目を通しながら、先ほどの仕事のことを思う。業者には「金は次の仕事の時に渡す。」と言っていたため、取りに行く手間が省ける。
―あの場に・・・いなかったのかしら。
私は冷や汗をかきそうになる。
私が考えているのは、今増えつつある私達にとっては厄介な連中。
「守り屋」と言うのだろうか、殺し屋を殺すことを許された人間達だ。
よく殺しの現場で調査をしていると言う話もあり、業者の者にも「守り屋には死んでも捕まるな。」と口うるさく言っている。
そのくらい危ない奴ららしい。
―「守る」と言う言葉がつくと、正義の味方に聞こえるんだけどな。
奴らは最初は1つの大きな団体で行動し、孤児なども引き取ると言う者達だったらしいが、それを真似た業者も最近は増えてきている。
ただの業者なら私達も怖くないのだが、特に怖いのは元祖の守り屋。
他の業者と違って本格的で、一度目を付けられたら死んだも同然と言うほどだ。
だから彼らだけには見つかりたくなかった。