トリップ

低い、そして笹が擦れるような声。
目の前に立っているのは、背の高い男。見た目から言えば20歳前半に見える。しかし、制服を着ている事から、高校生であると気付く。
無造作に伸びたくせ毛や目は、私と同じ漆黒だ。

「…誰?」

目の前の男に聞いてみると、男はフッと落ち着いた笑みを零す。

「こんな風に連れ込まれてもそう言えるなんて、この年の女子にしては冷静だな。」

私が何も言わなくなると、男は「やっぱり」と言わんばかりに話を続ける。

「普通なら怖くて叫んでいる所だろう。」
「そこまで言うなら、思い切り叫んであげようか?」

相手にいらついて来たらしく、私は負けじと言い返す。
−さっきからコイツの話が見えないわね。

私はそう思いながら男を見る。何が言いたいのだろうと疑問に思っていると、先手を取るように相手が話す。


「どんなライフルを使ったんだ?」


そうか。
私はこの男が何を言いたがっていたのかを理解する。
さっきからコイツが詮索していたのは、私の銃殺手段だ。

「どういうこと?」

しらばっくれてみるものの、ばれている事は分かっていた。
何せ、あの男の目が私ではなく、私の肩にかかっているゴルフバックに向いているのだから。彼も、その中にライフルが入っていると確信しているだろう。


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