トリップ

「その中か?ライフルは。」

ここで拒否したら間違いなく怪しい。
かと言って、あの中身を見せればライフルは発見される。相手もそうなる事を予測し、図った上で言っているのだろう。
私は周りに誰もいない事を確認すると、腰のバックに手をかける。
相手を拳銃で撃ち殺すつもりだった。
しかし、そう簡単には行かせてくれないらしく、男は私の額に同じ拳銃を向ける。

「下手なマネしたら、撃ち殺されるつもりでいろよ。」

−銃で私と勝負するつもり?

近距離の銃撃戦も得意とする私はつい血が騒いで銃を取り出しそうになる。
しかし、得体の知れないし相手を前に下手に手を出す訳にもいかないため、取りあえず発砲できる機会を待った。というか、下手に動いたら殺すと相手も言っているのだし。銃を持っているということは、彼もろくな仕事をしていないのだろう。

(殺し屋…いや、悪くしたら守り屋かも。)

いや、悪く考えても十分に有り得そうな事だ。
拳銃を向けられたまま男を見上げると、冷たい目線をこちらに向けたままだ。
自分と同じ漆黒の瞳は、どこか親しさを感じさせる。
…目で見たことそのままで言うと、天李に似ている。

天李のような可愛さはどこにも無いが、肌の色や髪の毛のスタイル、何よりも目が変わっていない。

「天李…」

−やばッ…!!

ふと呟いてしまった言葉に、私は思わず口を手で塞ぐ。
しかし、男は拳銃を放つ様子は無く、驚いたように目を開き、ポカンとしている。

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