トリップ

もしかすると 本人だったか?
可能性は低いが、0ではない。天李とおぼしき男はしばらく呆然としていたが、正気を取り戻したかのように拳銃を握る力を強くする。

「違う」

男は私ではなく自分に言い聞かせるように首を横に振る。

「俺はリクだ」

人違いかと思うが天李と聞いた時のあの動揺の仕方が異様に気になる。
おそらく、彼は嘘をついているのだろう。
なぜ隠しているのかは知らないが、無関係でないことは確かだ。

−って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。

まずはこのリクと名乗る男をどうにかしなくてはいけない。この場の先手は明らかに奴が持っている。すぐに行動するのは返って危ない目に遭う原因だ。

「苗字は?」

リクが中国語でそんな事を聞いて来る。

「あなた、中国語が分かるの?」

同じ中国語で言うと、彼は素っ気なく「ああ」と答える。やっぱり、この人天李じゃないの?そう思いながら、私は(別に名前は教えていないので)苗字だけ答えた。

「檜」

リクの顔がますます強張る。
これはまた一段と彼が天李だという確率が上がる。
すると、リクが銃の引き金に力を入れかけているのが見えた。

何?
まさか証拠不十分とかお構い無し?

まさかの予測不能な相手の動きに、私は驚いて腰を着きそうになった。


…リクSide…

どうして分かった?

本名を言われたことに、俺はかなり動揺していた。確かに、日本ではリクと使っているが、本名ではない。
その名で呼ばれたのは十年も前からである。
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