トリップ

俺は今はその名を使っていない。
必要性がないし、何より、今の名前は以前よりもずっと価値がある。

俺が守り屋になるきっかけになった人、そして、大人の中でたった一人信用出来る人間が、俺を拾ってくれた時に付けた名前だ。

無責任な両親が付けた名前よりもよっぽど価値がある。

そういえば、と俺は目の前にいる狙撃手の少女を見る。相手はしらばっくれているつもりだろうが、ハッキリ言うとバレバレだ。
こちらも犯人が分かった上で行動している。
男が銃殺されたと見られる方向でこの少女の目撃情報があった。しかも、いったんどこかに消えたかと思うと、また同じ場所に現れる。
ちゃんと依頼を完遂出来たかという確認だろう、殺し屋の第一パターンだ。しかも、彼女の薬指にたこが出来ている。相当飛び道具を使用している証拠だ。
そう確信したからこそ、俺はこの少女をここに連れて来たのだ。

早くカタをつけよう。


そう思った俺は、誰にもばれないうちに引き金に力を入れる。

しかし、そんな時に予想外の出来事が起きた。
自転車が倒れる音がし、俺はその方向を見る。

工場の入口には、一般人と思わしき少女が呆然と立っている。特に目立つ所は無く、人よりも群を抜いている所と言えば図体が大きい所だ。
悪いが、俺からはその顔がバカ面にも見える。



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