トリップ
文芸部と守り屋と
怖い物見たなぁ。
昨日の事件を思い出しながらキャプテンは思う。
それもそうだ。
仲のいい人間がいきなり銃を向けられていたのだから。
(もしあの時、もうちょっと遅かったら…)
撃たれていたかも知れない。
そう考えるとつい、小説を書く手が止まってしまう。部活動で図書館に来ていたキャプテンの隣では、ジュマが手を止めることなくキーボードを打っている。
相変わらず、可愛い文章だ。
そう思いながら、キャプテンも物語を進めることにする。
(そういえば、うちは物語の世界にトリップしてきたんやな。)
あまりに現実味のある世界に、思わずその意識が薄れて来ていた。
となると、全てが物語の通りに動いているのなら、他の人物、仲がいい者、通りすがる人、自分さえもその通りに動かされているのだろうか。
そう考えると、少し鳥肌が立つ。
(いいや、取り合えずその話しは置いとこう。)
首を振って気持ちを振り払うと、キーボードを打ち続ける。
書いていると、ふと途中で手を止めた。
告白シーンだ。
台詞はあらかじめいくつか用意してあったのだが、いざとなると甘い言葉が書けなくなる。
とくに、こんな言葉は嫌いだ。
1『俺が守ってやる!』
好きなら守るのは当たり前なのに、それをわざわざ口説きに使う必要があるのだろうか?
2『俺…お前のこと、好きかもしんねぇ』
中途半端な。
好きなら好きと言ってしまえ。
3『キスしても、いいかな?』
そういう要求は付き合ってから。
以上の3つだ。
恋愛経験が無いからか、キャプテンにとって、甘い言葉はキレイ言に聞こえる。