トリップ
そりゃあそうだな。
キャプテンの女にしては大きい二の腕を見ながらケイラはそう思った。
マンガ喫茶に近い所にあった小さいスーパーに入ると、キャプテンは慎重に目を光らせて品物を選ぶ。
これは小さい頃から母に鍛えられた『安くて品質の良い物を選ぶ目』のおかげだ。母曰く「女の豆知識」らしいのだ。
「何してんの。泥棒に見えるぞ。」
「これが貧乏人のアビリティーってもんなの。」
そう言いながら、キャプテンは獲物を探す虎のように目を光らせる。ケイラには何気にそれがあの時の守り屋の目に似ていて鳥肌が立つ。
「モヤシ買ってこうかな?」
買うならいくつか必要になりそうだ。
兄や弟、自分の食いっぷりを考え、なるべく安く済みそうな物を探すことにした。
「お前ってさ、似てるな。」
「何に」
「何つうの?母親にさ。」
「この年になったら皆これくらいやよ。」
「本当に、ガキがいるんじゃねぇかってくらい。」
「うちらぐらいになると、嫌でもお母に教え込まれるんやて。」
まるで狩りを教える虎のように。
教えられた頃を思い出しながらキャプテンは言う。
大根と肉とモヤシ等を買うと、キャプテンはそそくさとスーパーを出る。
「重そうだけど、大丈夫かよ。」
「うん、これくらいには堪えられる手じゃないと、小説書けへん。」
関係ないと思うけど。
ケイラは重そうな大根の入った袋を持つキャプテンの手を見ながらそう思った。
キャプテンの目の端には、都会ならではの風景が写っていた。
ギャル系の男女、サラリーマン、ヤクザらしき男達。そして、我が同士であるオタク系の者。
中にはナンパの現場もあった。