トリップ

よく見ればワイシャツは黒だけのシンプル、下は紺色のズボンだ。まじまじと見たらなかなか似合っていた。

「先輩…私服。」
「そうだが、何か?」
「いや、エロい……じゃなくて、シンプルだなぁって。」
「いま、何か下品な事言いかけたか?」
「い、いえっ」
「エロって聞こえたような」
「わ゛〜っ!!言わないで!」

顔を血のように赤く染め、エリカが声を張る。その声に気付いたのか、先程のヤクザ風の男達がこちらを向いた。

「ああもう…恥ずかしい…!」
「そんな…言われて恥ずかしいこと口走ったのか?」

よかった、先輩こういう事に関しては鈍感みたい。内心でホッとしながら呼吸を整える。
自分のするべきことを思い出し、服屋の方を見ると、いつの間にかあの男達はいなくなっている。

「あ、いなくなっとる」
「さっきのヤクザたちか?」

エリカがうなづくと、リクは素っ気ない顔で答えた。

「変質者がいるから早く帰ろうか、って言いながら帰って行ったぞ。」
「変質者?」

何の事だろう?いったん首を傾げたが、すぐに理由を理解した。

「まさか、うちがさっき怒鳴ったから……」
「だろうな。」
「うーっわ…!」

やってしまった。
エリカは顔をしかめながらも速足で服屋に入った。


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