トリップ
「そんな大きい服買うのか?」
「これはお母さんに頼まれて買うの。そもそも、うちそういうのはあんまりいらんし」
「ふぅん…」
冷たく言うと、リクは周りを見渡す。何を気にしているのかと思い、服を買った後に聞いてみた。
「先輩は何しに来たんですか?」
「仕事」
面倒がるリクの様子からして、多分守り屋の仕事だろう。
「あれ、でもオーディションは過ぎたはず…」
「君はあのオーディションをトップで合格した。そういう人間はもう少し様子を見るっていう期間があってな。ついて来ている訳だ。」
トップだったんだ…。耳を疑っていると、リクがエリカの顔を覗き込む。
「な…なんですか?」
「いや、喜んでるのかな、と。」
「あ…嬉しいですよ、これ聞いたら、親もきっと喜んでくれるし…」
「…あ、そう」
親という言葉を聞いた途端、リクの表情が変わる。どこも見ていない、思い詰めた顔だった。
「君の言葉聞いてると、何でも親が出てくるな。そんなに大事なのか?」
「あぁ…はい」
「…そうか」
淋しそうに呟くと、壁にもたれ掛かり、腕を組んだ。
「親孝行なんて、俺には胸クソ悪い言葉にしか聞こえないな。」
しかめっ面で、苦々しい目をしながら言うリクに、エリカは何も言う気になれなかった。
すると、
「あ、エリカじゃん!」
「美喜ちゃん」
「奇遇〜♪また会ったね〜」
「うん」
そう言いながら、美喜はリクの方を見る。一瞬焦ったような表情を見せたが、美喜は嬉しいと言わんばかりの顔になって言った。
「わぁ、駒南先輩?…なんだぁ、やっぱエリカも気があったの?」
「ち…違うて!たまたま会っただけで…」
「大丈夫だって〜、からかわないから☆」