トリップ
初めて見るリクの満面の笑顔に、エリカは新種の動物でも見たような、ワクワクとした気分になる。
「先輩……可愛いな。」
「何が?」
「爆笑しとるんやもん。すごい可愛いし。幼くなったみたいな。」
「え…?笑ってた?」
それを聞いた瞬間、ハッとしたリクの顔はいつもの青白い、冷たい顔に戻る。
馴れ合ってはいけない。
巻き込むだけだ。
リクはそう自分に言い聞かせながら立ち上がる。
「最後に一つ、聞いていいか?」
「あぁ、はい…」
「…君にとって、俺はどう見える?」
「えぇ……?」
「別に簡単でいい。悪役みたいでも、悪魔でも。・・・化け物でも」
どうって、とエリカは返答に困る。
(イケメンとか、王子様とか、悪魔とか・・・すごいとか。……それしか浮かばへんって、第一印象から!ああ、でも・・・)
悩みに悩んだ末、エリカは最も簡単な本音を口にする。
「いい人……かな?」
いい人。それがリクの頭に波紋となって広がる。
いいと言われる以前に、こちらの世界では人としても見て貰えなかった。
「それは本音なのか?」と聞きたくなるが、本音でないと言われるのを恐れて、リクは聞こうとしなかった。
逆に、もしそれが本音なら、本当に嬉しい言葉だ。
「そうか。……よかった。」
「先輩…」
帰ろうとするリクの袖を引くと、エリカは渡そうと思っていたものをそっとダブダブのポケットに入れる。気付いているのか、気付かなかったのか不明だが、彼は振り向いてエリカに言った。
「もうこれでお別れなわけじゃない。学校でも会える。…ただ、普通の生活で馴れ合うならいいが、こっちの世界には、もう関わるな。自分に非が来る。」
「あ……はい」
また会えると言っているのに、エリカにはもう少ししか会えないように聞こえた。
「本当に、と?」
「あぁ」
自信なさ気な声を出し、リクはその場から走り去って行った。
「本当に、か…」
一人で呟くエリカは、リクの悲しげな後ろ姿をただ眺めているだけだった。いや、それしかできなかったのだ。昔、エリカに託されたお守りをポケットに入れられたことに気付かない彼の姿を、じっと見つめる。
不意に、その姿が当時の〔彼女〕と重なった。