トリップ
「は?」
「やから、うちと友達になってくれるかって聞いとんの。」
「相手は殺し屋だぜ?怖くねぇのかよ。」
「・・・いいやん。なりたいもんはなりたいんやで。」
7年前と変わらない流れだな、とキャプテンは思う。
「7年前のあの日」以来いつもそうだった。さびしそうに見える人間がいれば、まるで競走馬のように走り、声をかけ、「友達」の言葉を口にする。
もちろん、血も涙もないような人間には、声などかけたくもなかったが、ケイラは、どこか違っていた。彼の青い瞳が、悲しみや後悔の色でいっそう青く染まり、いつも表情は不機嫌な顔で、深く考え込んでいるように見えたからだ。そして何より、キャプテンが彼に遭遇するたび、気付いていない彼の口からは「馬鹿」と言う、罪悪感を込めたような言葉が出てくる。いづれも、人を殺めた時だ。
血も涙もないようなら、きっとこんな風にはならない。
何が理由で殺し屋になったのかなど知らないし、本当に罪悪感があるのかも、本当に寂しいのかも分からなかった。
ただ、そのときの様子が、悪事のループから抜け出せない少年のようで、少なからず、期待を持ってしまった。
ケイラの中にいる本来の普通の人間の感情を引き出すことで、彼の瞳をいっそう青く染めているあの悲しみの色から、掬い上げてやれるのではないか、と。
それはかつて、7年前にある1人の少女が、キャプテンにしてくれたことと同じだった。
「それってさ・・・お前、何か企んでる?」
怪しそうにキャプテンを睨む。キャプテンは、目を丸くして首を横に振った。あるわけがない、と思う。
「俺はさ、もう他人の企みに引っかかるのはごめんなんだよ」
「企んどらん」
「お前についていって、ちょっと観察するぐらいが丁度楽しいし、暇つぶしになったんだよ」
「じゃあ、ノリでなっちゃおうよ」
「何がノリだよ。どこの悪徳商業でも、そんな誘い方しねぇぞ」
この行為を「悪徳」と言われるのは不快な気分だったが「待て待て」と自分にいい聞かす。7年前、自分もこんな風だったではないか、と。
すると、ケイラは1度だけ、クスッと笑った。頼もしい、愉快な物を見ているように、だ。
「やっぱ、面白いかも」
彼がそう呟いたのが聞こえる。