トリップ
「どうした?」
澄んだ声が聞こえ、それだけしか聞こえないように思えた。
「あ・・・えっと・・・」
「ん?」
まるで悪戯をして家に帰れない子供を不安にさせないように、優しく訪ねるような声だ。
「レポートに使った弓矢を返しに来ようと思って来たんですけど・・・」
「あ、そう」
リクは興味なさげに言うと、また弓を引き、命中させる。
「レポートの提出日は、あと少しだったな」
「ああ、はい」
その日のことを考えると、エリカは胸が痛くなる。キャプテンのさびしそうな顔が浮かんだからだ。
「あと少しですね・・・」
悲しそうな表情をしていたからか、リクは困ったようにエリカを見下ろした。
「悲しそうだな。何かあったか?」
「・・・その日に、夏祭りがあって」
「ああ、あれか」
「友達と行く予定やったんですけど、急に提出のこと思い出して、急遽取りやめに・・・」
「なるほど」
さして何の興味も示さないような口ぶりだった。関わろうとしない、感情の無い言葉だ。
「あの祭りは、この学校の生徒も来る。あの人ごみなら拉致も可能。だから不審な奴がいるか確認するために、数人の守り屋が雇われるんだ。ただ、その祭り場にはいるが、遊びに来るわけじゃないからな。」
皆守り屋に頼りすぎだろう。
教師はここの生徒に対して過保護すぎではないか、とエリカは思う。