トリップ
「なんだ。話分かるじゃねぇか」
笑みを浮かべた男の目にも、どこかぽっかりと空いた穴のようなものがあった。
「俺はさ、小久保(こくぼ)ってんだ。またな」
「会うときがあればな」
「ああ、そうだな」
小久保と名乗った男は、リクに背を向けるとさっさと集いの場を出て行った。
―
「ここか」
すっかり暗くなった夜。ケイラは以前以来をしてきた男に呼び出され、今はもう使われていない市民体育館へを足を踏み入れる。
呼び出すときの男の声が少し震えていたので、ケイラには不安もあった。
(罠・・・じゃねぇかな?)
そう思いつつも中に入ると、男はいない。
「?」
やっぱり、なのか?
目を凝らして周りを見ると、数人の人影が見える。