トリップ
いったん男が上から退いたかと思えば、次は体のあちこちに鈍痛が走る。一斉に囲まれ、棒か何かで殴られているのだろう。
何故かそこでケイラの脳裏に中学生の頃に見た18歳以上禁止の映画を思い出す。
暴走族に囲まれ、リンチされる被害者の姿が思い浮かんだ。
―なるほど、つまり今の自分ってことか。
この状況でもこんな事を思える自分に、ケイラは呆れる気もする。
目を潰されないように、両腕で顔だけは守るようにした。何せ、殴られたら死ぬ部分だっていっぱいあるのだから。
握っていたナイフの柄を掴み、一番近くにいた男の脛を切った。悲鳴が上がる。
他の者が倒れた男に目を向けた隙に、ケイラはその輪から脱出した。
しかし、やはり一番先に動くのは小久保。予想していたかのように俊敏に動き、ハヤブサのような動きでかぎ爪を絡ませてくる。
先ほどの集団攻撃で頭から出る血液が目に入るのが気になった。
腕から血が出るが、切りつけるのが速く痛みを感じることさえ難しい。
すると、急に体の力が抜け、しゃがみ込んでしまう。
「え?」
手がガクガクと震える。