トリップ
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「はぁ・・・は・・・」
酸素を吸うたび、呼吸が荒くなる。麻痺毒が使われているせいか、足が震え、立つ事さえ困難に思えた。
麻痺だけなのでいづれ効き目は切れるだろうが、それまで自分の体が持つかどうか心配になってくる。
ふと地区看板に目をやると、ぼんやりとしていたケイラの視界が一瞬ハッキリとした。
キャプテンの住んでいるマンションの隣を通っていたのだ。
「やべ・・・」
ここで彼女の目に付いたら、きっと近寄ってきてしまう。挙句には助けられるかもしれない。そんな事をしては巻き込まれるかもしれなかった。
ケイラは少し足の速度を上げる。
どうせ夜なので、きっと兄弟と仲良く話しているに違いない。
ハハッ、と笑いながら、足を引きずるようにして祈った。
頼むから、話しててくれよ。
じゃないと気付かれる、とケイラはついにコンクリートの塀にもたれかかりながら進む。