トリップ
「あの・・・誰ですか?」
「3年生」
名前を言わず、学年だけを答えた。
「名前は・・・」
「・・・それは名乗らなければいけないのか?」
その声は「名乗るのが嫌だ」と言うよりは、「名乗るのが面倒臭い」と言いたげな声だった。
「・・・」
エリカがうなづくと、少年は仕方無さそうに答えた。
「駒南(こまなみ) リク」
リクと答えた少年は、エリカから目をそらし、再び水槽に目を向けた。
水槽の中には、ナマコが一匹、動く事もなく、もう何年も静止しているようにも見える。
実験用なのか観察用なのか、それともリクの趣味なのか、どれなのかは知らないが、とにかくそれが一匹中に入っていた。
「は・・・」
疲れたような溜め息ではなく、満足げな溜め息がリクから聞こえた。
「人も、こんな風ならな。どれだけ楽か」
自分が人でないような言い方で、ジッと水槽を見つめていた。