トリップ
キコキコキコ、と良くも悪くも無い音が耳に響いてくる。
自転車を必死にこいで辿り着いたのは大きなデパートだった。なるべく人の多い駐輪場に自転車を止め、急いでデパートの中に入る。
相手は車を用意していなかったので、その足で来るだろうとキャプテンは考えた。
(あ、でもタクシーで来るかも・・・)
しまったなぁ、と頭を押さえる。いくら自転車でも、車が相手では勝ち目がない。
とにかく、今はなるべく人の多い所に行く事だけを考えた。連れ込まれそうになっても大声で叫べば注目してもらえそうな所へ。
しばらく人ごみの中にいるつもりでいたが、やはりタクシーで来たらしい。小久保がケイラよりも強い力で腕を引っ張った。
「いだだだだだっ・・・!」
腕が千切れるのではないかと思うくらい強い力だ。思い切って小久保の腕の関節を肘で突いたが、何の効果もない。
指先が震えてきた。
「付いて来るだけだろうが、早く来い」
「いっ・・・嫌やっ!」
なるほど、いざ大声を出そうと思うと意外と出ないのだな、とキャプテンは勉強する。