トリップ
刺すよりも切る方が命中率は上と考え、ケイラはナイフを横に振った。小久保が弾き返してくることは想定内だったが、意外にもナイフをかぎ爪で掴み、そのままかぎ爪を掬い上げるように上げ、3本の中指の部分が、ケイラの右腕を切り裂いた。
深い。苦痛に顔を歪めた。
小久保がそのナイフを掴んだ手をそのまま引っ張り、体を無理矢理逸らさせる。腹の辺りが正面に来た所で、小久保はケイラの鳩尾を思い切り蹴り上げた。
「っは」
蹴り飛ばされ、背中から地面に激突する。前と後ろの衝撃に、息が詰まり頭がくらくらした。しかし、すぐにめまいを忘れて立ち上がった。
相手の勢いは止まらず、切り付ける以外にも、かぎ爪の硬い部分で殴られ、唇を血が伝った。深い傷になりそうな攻撃は避けて、それでも避けきれそうにない浅い傷は受けた。
毒は使われていないようだが、それでも切られた腕が痛む。押さえるとドクンドクン脈打つような感覚だ。
犬が舌を出す時のように、ハッハッと区切るように呼吸する。いくら身体能力があっても、深い傷と攻撃を避け続ける事にで消費する体力、2つの負荷がかかっては、さすがに限界があった。
負ける、と諦めかけるたびに唇を噛んで自分に鞭を打つ。
小久保がかぎ爪を突き出してきたとき、さすがに体力の限界を感じていたケイラは「負けるよりマシだ」と心に言い聞かせ、刃となるかぎ爪を左手で受け止めた。
痛みを感じたが、悔いが残るよりははるかにいい。その考えで痛みを和らげる。