トリップ



自分に倒れこんで、力尽きたと見られる小久保を、ケイラはゆっくりと地面に下ろした。下ろして、先ほど言われた事を思い出す。

寺の下に彼の死体を置いていく事と、死んだことを「キリダ ツトム」には言わないという事。

ケイラは小久保の体を引きずり、寺の下に隠す。本当は殺した相手の遺言など聞かないでとっとと帰る所なのだが、何故か実行しなければいけないという気持ちがあった。
寺から這い出たところで、そういえば、と振り返る。

「『ツトム』って・・・誰だ?」

俺が助けに来たのはキャプテンだぞ、と寺の下に向かって言う。電話越しにキャプテンの声が聞こえてきたので来たのだが、誰も『ツトム』を助けに来たのではない。
そして、少し考えてから「もしかして」と呟いた。

「あいつの・・・」

そう言いかけて、それはまた後で聞こう、と考えた。相手が出てくる前に脱ぎ捨てた薄い上着を着て、とりあえず血だけは見えないようにしてから、門を出ようとする。が、少し立ち止まると、ケイラは近くに咲いていた花をちぎり、寺の下に置いた。

普段ならこんなことしないのに。

らしくねぇな、と小声で呟いて行った。



< 281 / 418 >

この作品をシェア

pagetop